ぬくもりの陰にある責任 ―― 命を守る「数字」と、私たちが愛を証明する方法
朝の光に揺れる尻尾と、私たちが背負うもの
新緑の風をいっぱいに吸い込みながら、愛犬と歩むいつもの散歩道。無事に帰宅し、嬉しそうに尻尾を振るそのあたたかい毛並みに触れるとき、私たちはこの上ない「平凡な日常の奇跡」を感じます。しかし、この愛おしい生活の背景には、飼い主として決して忘れてはならない、そして目を背けてはならない大切な約束があります。それが「狂犬病予防接種」です。
日本の法律(狂犬病予防法)によって、すべての飼い主に年一回の実施が義務付けられているこの事柄。普段は何気なく受けさせているこの注射ですが、現在の日本におけるペットたちのリアルな現状はどうなっているのでしょうか。
今回は、専門的な調査データを紐解きながら、私たちが愛するパートナーとこの社会で共に生きていくための「本当のルール」について、深く、静かに思索してみたいと思います。
暴かれる数字のギャップ ―― 「見えない犬たち」の存在
まず、私たちが暮らすこの日本で、実際に飼われている犬の数をご存知でしょうか。
- 日本の犬の飼育頭数:
約682万頭(ペットフード協会・全国犬猫飼育実態調査より)
かつてに比べると緩やかな減少傾向にありますが、今もなお、これほど多くの尊い命が人間の家庭を彩っています。そして、彼らの健康と命を支えるインフラである街の動物病院は、全国にどれくらいあるのでしょうか。
- ペットを診る動物病院の数:
12,706施設(農林水産省・飼育動物診療施設開設届出状況より)
この1万2千を超える動物病院の先生方が、日々、私たちのパートナーの命に寄り添ってくださっています。ここまでは、非常に恵まれた環境のように見えます。しかし、肝心の「狂犬病予防接種の接種率」に目を向けたとき、私たちはひとつの深い割り切れなさと驚きに直面することになります。
厚生労働省の公表しているデータによると、市区町村に行政登録されている犬の接種率は約70%にとどまっています。
さらに深刻なのは、行政に飼い犬としての届け出自体がなされていない「未登録犬」の存在を加味した場合です。日本獣医師会などの推計では、実際の全飼育頭数に対する実質的な接種率は「わずか4割程度」ではないかとも言われているのです。
昭和32年(1957年)以降、日本国内での狂犬病の発生は撲滅されたとされています。発症すれば致死率ほぼ100%というこの恐ろしい病気が身近にないからこそ、私たちの危機意識はいつの間にか薄れ、「わざわざ毎年打たせなくても大丈夫だろう」という油断が、この数字の歪みを生み出しているのかもしれません。
守られている環境を「当たり前」としない知恵
世界保健機関(WHO)の推計によれば、今でも世界中(特にアジアやアフリカ)では、毎年多くの人々が狂犬病によって命を落としています。日本が「島国であり、厳しい水際対策と徹底した予防法によって守られている聖域」であるに過ぎないのです。一人の権力者が一瞬で世界の経済や秩序を乱してしまうように、もし海外からひとたびウイルスが侵入すれば、接種率が低下した現在の日本の環境では、一気に戦火のような感染拡大が起こるリスクを孕んでいます。
聖書は、私たちが自分に委ねられた小さき命に対して、どのように誠実であるべきかをこのように指し示しています。
「正しい人は自分の家畜の命に配慮するが、悪人の憐れみは残酷である。」(格言の書 12章10節 参照)
言葉を持たない犬たちは、自分の意志で動物病院へ行くことも、法律を守ることもできません。彼らはただ、100%の信頼をその瞳に湛えて、飼い主である私たちを見上げているだけです。予防接種を受けさせるという行為は、単なる法的なペナルティを回避するためのタスク(義務)ではないのです。それは、社会に対して彼らの命の安全を保証し、彼らの存在をこの世界に堂々と「公認」してもらうための、飼い主としての最大の愛情表現そのものなのです。
ペットとの共存のための、三つの正しいルール
日々の忙しさや、「みんな打っていないから」という社会の空気に流されて、大切な手続きを後回しにしてはいませんか? 本当にペットを愛し、共に調和して暮らしていくために、私たちはもう一度、足元のルールをピシッと引き締める必要があります。
- 登録と接種をひと手間の愛とする: 面倒に思える「狂犬病の登録」と「年一回の注射」を、愛犬の命に「社会的なシールド」を着せてあげるための、誇りあるひと手間として喜んで行う。
- 動物病院との絆を結ぶ: 全国にある1万2千の動物病院は、地域の命の砦です。定期的なワクチンや健診を通じて、かかりつけの先生との信頼関係を普段から耕しておく。
- 「社会の一員」として育てる: 優しい言葉やマナーをもって、犬を飼っていない周囲の人々に対しても配慮を忘れない。その姿勢が、結果として我が子の生きる世界を優しく広げることになります。
あたたかい目元を見つめて
今回の調査で暴かれた「4割」という数字は、一見すると冷たくて寂しい現実に見えるかもしれません。けれど、裏を返せば、それは私たちが今日からでも、自分の選択ひとつで「この世界をもっと安全で優しい場所に変えられる」という、確かな希望の伸び代でもあります。私たちが自分の物差しで、身近な命を誠実に守り抜くこと。
お仕事や実習を終えて帰ってきた家族が、玄関を開けた瞬間に、何の不安もなく愛犬をギュッと抱きしめて「ただいま」と笑顔になれること。その平凡な日常のなかにこそ、いかなる嵐にも揺るがない、最高の平和と秩序が確立されているのです。
愛する我が子のあたたかい背中に手を当てて、その尊い息遣いを感じながら、明日もまた、責任ある確かな足取りで、共に前進していきましょう。
今日も、共に前進です。





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