2008年のエミー賞を席巻したこの物語は、19世紀ロンドンの光と影が織りなす、壮大な人間ドラマの傑作です。きらびやかな社交界の裏側で、富と貧困、愛と裏切り、そして赦しと再生の物語が、息をのむほどの深みをもって描かれます。
物語の中心にいるのは、エイミー・ドリット。人々からは親しみを込めて「リトル・ドリット」と呼ばれる彼女は、その生涯のほとんどを、債務者監獄マーシャルシーの高い壁の中で過ごしてきました。彼女は監獄で生まれ、監獄で育ったのです。しかし、その心は誰よりも自由で、気高く、そして深い愛情に満ちています。彼女は、監獄の中で「紳士」として振る舞い続けるプライドの高い父を支え、家族のために黙々と働き続ける、まさに「監獄の天使」でした。
一方、もう一人の主人公が、アーサー・クレンナム。20年間、海外で一族の事業に心ないままに従事してきた彼は、父の死をきっかけにロンドンへ帰国します。冷酷で厳格な母親が営む家業に疑問を抱き、人生の目的を見失っていた彼は、母親のもとで針仕事をするエイミーと出会います。その謙虚で純粋な魂に心を打たれたアーサーは、なぜか自分の家族がこの貧しい少女に関わりがあることを察し、ドリット家にまつわる謎と、彼らを不当に苦しめている秘密を解き明かすことを自らの使命とします。
物語は、驚くべきどんでん返しを迎えます。長年隠されていた遺言が発見され、ドリット家が莫大な遺産の相続人であることが判明するのです。一夜にして、監獄の最底辺からロンドンの最高級の社交界へと躍り出た一家。しかし、富は彼らに幸福をもたらしませんでした。家族は新たな「富という名の牢獄」に囚われ、偽りと虚飾にまみれ、かつての慎ましさを失っていきます。その中で、ただ一人、リトル・ドリットだけは、その清らかな心を失うことはありませんでした。
皮肉なことに、今度はアーサーが投機の失敗で全てを失い、かつてエイミーがいたマーシャルシー監獄に収監されてしまいます。富と貧困、立場が完全に逆転した二人。絶望の淵に沈むアーサーのもとに、今度はエイミーが救いの手を差し伸べます。彼女の揺るぎない愛と献身こそが、全ての秘密を解き明かし、登場人物たちを偽りの牢獄から解放する、唯一の鍵となるのです。
キリスト教の視点から ― 最も小さい者が、最も偉大な愛を示す
『リトル・ドリット』は、「はじめの者があとになり、あとの者がはじめになる」(マタイ19:30)という聖書の言葉を、見事に描き出した物語です。監獄で生まれたエイミーは、富や地位ではなく、謙遜と奉仕というキリストの姿を体現します。彼女の無償の愛(アガペー)は、登場人物たちを縛るプライド、罪悪感、秘密という「心の牢獄」を打ち破る、唯一の力となります。この物語は、真の富とは財産ではなく、神の前に清い心を持ち、人を愛する魂にこそ宿ることを教えてくれるのです。
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