「今度こそダイエットを成功させるぞ!」と誓ったはずなのに、深夜にポテトチップスを開けてしまう。
「感情的になるのはやめよう」と決めたのに、またパートナーにキツイ一言を浴びせてしまう。
「明日こそ早起きする」と心に決めて、結局スマホを夜更けまで見てしまう。
誰にでも、そんな「わかっているのに、やめられない」経験があるはずです。私たちは、自分の意志の弱さを責めがちですが、実はこの「過ちのループ」には、私たちの脳と心に深く刻まれた、科学的な理由が存在するのです。
理由①:脳は「省エネ」が大好き!強力な習慣という名の自動操縦
私たちの脳は、驚くほど「怠け者」で、できるだけエネルギーを使わずに物事を処理しようとします。そこで活躍するのが**「習慣」**です。
何かを繰り返し行うと、脳の中には「神経回路」という名の道ができます。最初は草むらをかき分けて進むような道も、何度も通るうちに、くっきりと舗装された高速道路のようになります。これが習慣の正体です。
一度この高速道路ができてしまうと、脳は意識的に「考える」ことをやめ、自動操縦モードに切り替わります。ストレスを感じる(合図)→お菓子を食べる(ルーティン)→一時的に満足する(報酬)。このサイクルが完成すると、あなたの意志とは関係なく、脳は最短ルートで報酬を得ようと自動的に動き出してしまうのです。
理由②:目先の快楽には勝てない?「ドーパミン」という名の誘惑
なぜ、長期的に見ればマイナスだとわかっている行動を選んでしまうのでしょうか。その鍵を握るのが、快楽や報酬に関わる神経伝達物質**「ドーパミン」**です。
ジャンクフードを食べる、SNSをチェックする、衝動買いをする。これらの行動は、即座に、そして簡単にドーパミンを放出させます。脳は、この「手っ取り早い快感」が大好きです。
一方で、「健康な体」や「良好な人間関係」といった長期的な目標がもたらす報酬は、遠く未来にあります。そのため、脳は目の前にあるドーパミンの誘惑に負けてしまい、「未来の大きな幸せ」よりも「今の小さな快楽」を優先してしまうのです。
理由③:自分に都合よく言い訳する「認知バイアス」
さらに、私たちの心には「認知バイアス」という、物事を自分に都合よく解釈してしまう心のクセがあります。
「今日だけは特別」「これくらいなら大丈夫だろう」といった言い訳は、失敗した自分を正当化し、反省から目をそむけさせる働きをします。これにより、過ちから学ぶ機会を失い、同じ失敗への道を自ら固めてしまうのです。
「過ちのループ」から抜け出すための3つの処方箋
では、この強力なループから抜け出すことはできないのでしょうか?いいえ、脳の仕組みを理解すれば、逆に対応策を立てることができます。
1. 新しい「高速道路」を建設する:「if-thenプランニング」
悪い習慣を「やめる」と意識するだけでは、脳はかえってそれを意識してしまいます。「もし(if)〇〇という状況になったら、そのときは(then)△△という行動をとる」と、あらかじめ新しい行動パターンを決めておくのです。
例:「もし(if)イライラしたら、そのときは(then)冷たい水を一杯飲む」
例:「もし(if)深夜にお腹が空いたら、そのときは(then)歯を磨く」
これは、古い高速道路の入り口に、新しい魅力的な道への看板を立てるようなもの。これを繰り返すことで、脳は新しい健康的な習慣の道を記憶していきます。
2. 失敗を「データ」に変える:「1行日記」で客観視
失敗して自己嫌悪に陥るのは、最も非生産的な行為です。代わりに、なぜ失敗したのかを客観的に記録してみましょう。
「疲れていたから」「〇〇さんに会った後だったから」など、引き金となった状況や感情を1行でいいのでメモするのです。失敗は「ダメな自分」の証明ではなく、次への対策を立てるための貴重な「データ」に変わります。
3. 「小さな成功」でドーパミンを味方につける
新しい良い習慣が少しでもできたら、大げさなくらい自分を褒めてあげましょう。ガッツポーズをする、好きな音楽を聴くなど、簡単なことで構いません。これにより、脳は「新しい行動=快感」と学習し、ドーパミンが良い習慣の形成を手伝ってくれるようになります。
同じ過ちを繰り返すのは、あなたが弱いからではありません。それは、私たちの脳が持つ、ごく自然な働きです。しかし、その仕組みを知り、少しの工夫を加えれば、私たちは自らの手で、人生の舵を取り戻すことができます。昨日と同じ自分にサヨナラし、新しい習慣の設計者(アーキテクト)となる旅を、今日から始めてみませんか。
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