EL CAMINO

 

EL CAMINO DE SANTIAGO

はじめに:なぜ、私は10年間歩き続けたのか

2014年から2024年までの10年間で、私は8回、スペインとフランスにまたがる巡礼路「カミーノ・デ・サンティアゴ」を歩きました。その総距離は、数千キロに及びます。

 カミーノ・デ・サンティアゴ、すなわち「聖ヤコブの道」は、1200年以上の歴史を持つキリスト教の巡礼路です。しかし、この道が人々を惹きつけるのは、単なる歴史や宗教的な意味合いだけではありません。

 そこは、人生そのものの縮図のような場所です。

期待に胸を膨らませる出発、息が切れるほどの上り坂、道に迷う不安、思いがけない出会いの喜び、そして、涙が出るほどの痛みを乗り越えた先に見える、言葉にならない絶景。

 この道で私が何を見つけ、何を学んだのか。これは、その10年間の祈りと、旅の記録です。人生という道を歩むすべてのあなたの「伴走者」として、そして、疲れた時に立ち寄れる「心の給水所」として、私の体験を分かち合いたいと思います。

 

巡礼の記録 (2014-2024)

2014年:フランス人の道 (サン・ジャン・ピエ・ド・ポーサンティアゴ 約800km)

 


 【旅の始まりと、乗り越えるべき山】

すべてはここから始まりました。フランスの小さな町からピレネー山脈を越える、最も有名で伝統的なルートです。10kgのバックパックは、まさに「自分との闘い」。しかし、ふと顔を上げた時に、同じ道を歩む巡礼者たちの姿が見えた瞬間、この苦しい一歩が、1200年以上続く歴史の一部であることに気づきました。

 学びの核心: この旅で私は、希望・迷い・試練・忍耐という、巡礼の(そして人生の)本質を凝縮して体験しました。

 迷い: 夜明け前の森で道を見失い、40分も彷徨った経験は、「進むべき道でない場所には、ほんのわずかな印さえない」という真理を教えてくれました。人生に迷った時、立ち返るべき場所はどこか。それは、私たちにとっての礼拝の場なのです。

 試練: 両足にできた無数のマメ、そして足首の激しい痛み。肉体の限界を感じ、「もう歩けないかもしれない」と思った時、私を支えたのは「今日一日を歩く力だけをお与えください」という切実な祈りでした。この試練を通して、神様の前に謙虚になることを学びました。

 

2015年:ル・ピュイの道+フランス人の道 (ル・ピュイサンティアゴ 約1600km)

 


【本物の「しるし」を見分ける】

この年は、フランスの美しい村ル・ピュイから歩き始め、さらに長い距離に挑戦しました。フランス側の道では、巡礼路を示す「白と赤」の線が生命線です。しかし、道中には紛らわしい黄色や緑の印が無数にあり、それに惑わされて何度も道を間違えました。

 学びの核心: この経験は、私たちの信仰生活そのものを映していました。世の中には、楽な生き方や耳障りの良い言葉といった、様々な「偽りのしるし」が溢れています。しかし、私たちを真の救いへと導く道は、時に狭く、厳しくとも、主イエスが示された十字架の道ただ一つです。その本物の「しるし」から目を離さないことの大切さを、骨身に染みて感じた旅でした。

 

2016年:北の道+銀の道 (1800km)


 

【荒野で祈る、ということ】

この年は、スペイン北部の海岸線を行く風光明媚な「北の道」と、ローマ時代からの歴史を刻む「銀の道」という、二つの対照的なルートに挑みました。特に北の道は天候が厳しく、雨具が手放せない日々でした。

 学びの核心: 厳しい環境だからこそ、心からの切実な祈りが生まれる。荒野で祈られた主イエスや、砂漠で神と向き合った古代教父たちのように、安楽な場所ではないからこそ、霊性が研ぎ澄まされる。この旅は、私にとって「祈りの原点」に立ち返るための、いわば現代の荒野での修行でした。

 

2017年:ジュネーブの道+ポルトガルの道 (650km)

 


【ヨーロッパを繋ぐ、信仰の道】

スイスのジュネーブからフランスのル・ピュイまでを結ぶ道と、ポルトガルのポルトからサンティアゴを目指す、二つの道を歩きました。国境を越えても、巡礼者を見守る道の優しさと、そこに生きる人々の温かさは変わりませんでした。

 

2019年:プリミティボの道 (321km)

 


【最古の道と、嵐の中の気づき】

「最初の道」を意味するプリミティボは、巡礼路の中で最も古く、そして山深く険しいルートとして知られています。案の定、旅の後半は毎日が嵐のような雨でした。

 学びの核心: 強風が吹き荒れる山頂で、体が飛ばされそうになった時、私を地面に繋ぎとめてくれたのは、普段あれほど「重い」と愚痴をこぼしていたバックパックでした。人生における「重荷」や「苦しみ」も、見方を変えれば、自分を支え、転ばないようにしてくれる錨(いかり)のような役割を果たしてくれることがある。この逆説的な真理に気づかされた、厳しいながらも恵み深い旅でした。

 

2023年:マドリードの道 (マドリードサアグン 約320km)

 


【大都市から始まる、内面への旅】

この年は、スペインの首都マドリードから北へ向かう道を歩きました。大都市の喧騒から出発し、やがて広大なメセタ(台地)の、どこまでも続く一本道へと入っていく。その風景の変化は、まるで自分の心が、外的世界から内的世界へと深く沈んでいく過程のようでした。

 学びの核心: 周囲に何もない平原を一人で歩く時間は、良くも悪くも自分自身と向き合わざるを得ません。この道は、私に「沈黙」と「内省」の価値を教えてくれました。絶えず何かを求めるのではなく、ただ歩くこと、ただ在ることの中に、豊かな神様との対話が生まれることを知りました。

 2024年:ポルトガルの道・内陸ルート (ポルトサンティアゴ 約240km)

 

【歴史の道を歩く】

以前歩いた海岸ルートとは対照的に、今回は歴史的な町や村、そしてブドウ畑を抜けていく内陸の道を歩きました。きらびやかな海の景色とは違う、素朴で、人々の生活の息遣いが感じられる風景がそこにありました。

 学びの核心: 道は一つではない。同じ目的地を目指すにも、様々なルートがあります。どちらが優れているということではなく、それぞれの道に、それぞれの美しさと、そこでしか得られない学びがある。人生の選択もまた、これと同じなのかもしれません。

 おわりに:旅はまだ、続いている

10年間、8回の巡礼を終えて思うのは、私はサンティアゴ・デ・コンポステーラという「目的地」に着いたのではなく、ただ「道を歩き続けてきた」に過ぎないということです。そして、その道は、これからも私の日常の中に続いています。

 この記録が、あなたの人生の道を照らす、小さな光となれば幸いです。

もし道に疲れ、一休みしたくなったなら、いつでもこのブログという「給水所」に立ち寄ってください。

 

あなたの旅路にも、豊かな恵みがありますように。

マラナタ!

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