チェーザレ・パヴェーゼ著『月と篝火』

 


チェーザレ・パヴェーゼ著『月と篝火』

 

【作品の要約】

第二次世界大戦後、アメリカで財を成した一人の男が、故郷であるイタリア・ピエモンテの村へ20年ぶりに帰ってきます。彼の名は「アンギーラ(鰻)」。孤児院で育ち、自分の本当の親も生まれた場所も知らない彼は、まるで鰻のようにさまよい、故郷の地に自分の「根」を探し求めていました。

 

懐かしい村の風景。しかし、彼の目に映る故郷は、思い出の中にある牧歌的な場所ではありませんでした。村はファシズムとパルチザンとの激しい対立が残した深い傷跡に覆われ、人々の心には貧しさと癒えない憎しみが影を落としていました。

 

アンギーラは、村に残り堅実に生きる旧友のヌートとの対話を通して、変わらない自然の営み(月)と、人間の世界の残酷な現実(篝火)を目の当たりにしていきます。かつて彼が奉公していた農場の美しい三人姉妹の悲劇的な末路、特に末娘サンティーナがファシストのスパイとして同志に処刑され、「篝火」で焼かれたという衝撃の事実。豊作を祈る祭りの象徴であったはずの篝火は、ここでは暴力と死の象徴として描かれます。

 

アンギーラは、自身の少年時代を思わせる貧しい少年チントに未来への希望を託そうとしますが、そのチントもまた、父親が家に放った火によってすべてを失うという悲劇に見舞われます。

 

結局、アンギーラは探し求めていた安らぎやアイデンティティを故郷に見出すことはできませんでした。過去は美しい思い出ではなく、変えようのない厳しい現実として彼の前に立ちはだかります。この土地は、もはや彼の還る場所ではなかったのです。物語は、彼が再びこの地を去ることを読者に予感させながら、静かに幕を閉じます。

 

【キリスト教的視点から】

この物語は、自分の「根」、すなわち「父」を求める人間の根源的な旅路を描いていると読むことができます。主人公アンギーラは、地上の故郷にその答えを見つけようとしますが、そこにあったのは罪と死の記憶であり、魂の渇きは満たされません。

 

彼の姿は、私たちに問いかけます。「あなたの本当の故郷はどこですか?」と。私たちの心の奥底にある本当の平安は、移ろいゆくこの世の故郷ではなく、天におられる父なる神との関係性の中にしか見出すことができないのかもしれません。

 

物語に描かれる人間の罪の深さと癒えない傷は、私たち自身の姿でもあります。しかし、聖書は、どんな悲劇の中にも神の恵みと希望の光があることを教えています。この物語の厳しい現実を見つめながら、私たちを贖い、真の「故郷」へと導いてくださるキリストの存在に、改めて思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

 

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