小さな日々に宿る、とびきりの幸せの種。『あしたも、こはるびより。』
『あしたも、こはるびより。』は、建築家の故・津端修一さんと共に、長年愛知県の里山で自給自足に近い生活を営んできた津端英子さんの日常を綴った心温まるエッセイです。大量生産・大量消費が当たり前の現代において、お二人の暮らしは、私たちに「本当の豊かさとは何か」を静かに問いかけます。
この本の魅力は、何と言ってもその「丁寧さ」にあります。約200坪の敷地に広がる畑では、旬の野菜や果物が育てられ、英子さんの手によって丁寧に料理され、食卓に並びます。保存食作りや手仕事など、暮らしのすべてに手間ひまを惜しまない姿は、一つひとつの営みに喜びを見出すことの大切さを教えてくれます。
夫の修一さんが大切にしていた「時は金なり、しかし人生は金なりではない」という言葉は、お二人の生き方の根幹をなしています。効率や物質的な豊かさを追い求めるのではなく、ゆっくりと時間をかけ、自然のリズムに寄り添いながら、心豊かな日々を積み重ねていく。そんな「ゆっくり、ていねいに」の哲学が、ページをめくるごとにじんわりと伝わってきます。
夫が先に旅立ってからの英子さんの姿も、本書の重要なテーマです。深い悲しみの中にあっても、夫が残した言葉や精神、そして日々の暮らしの習慣を大切に守り、前向きに生きる姿は、私たちに大きな感動と勇気を与えます。手入れされた庭、季節の移ろい、そして何気ない日常の中に潜む小さなきらめきを見つけ出す感性は、読者の心に安らぎと希望をもたらしてくれるでしょう。
この本は、特別な出来事やドラマティックな物語があるわけではありません。しかし、日々の暮らしの中にある「足るを知る」喜びや、自然と共に生きる穏やかな時間がいかに尊いかを教えてくれます。物質的な豊かさではなく、精神的な豊かさを追求する生き方、そして、明日もまた「こはるびより」のような温かい一日が来ることを信じて丁寧に生きる知恵が、本書には詰まっています。
キリスト教の観点から
この本は信仰書ではありませんが、その中に流れる精神はキリスト教の教えと深く共鳴します。津端夫妻の「足るを知る」生き方は、現代の物質主義社会への警鐘であり、神が与えた創造世界(自然)を慈しみ、恵みに感謝する**「創造の管理者」としての生き方を体現しています。日々の小さな恵みを見出し、丁寧に生きる姿は、聖書が説く「いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。どんなことにも感謝しなさい」**(テサロニケの信徒への手紙一 5:16-18)という教えの実践とも言えるでしょう。神に与えられた命と時間を大切にし、何気ない日常の中に神の恵みを見出すヒントが、この本には散りばめられています。
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