2025宮城学院中・高等学校クリスマス礼拝説教

 


2025宮城学院中・高等学校クリスマス礼拝説教」19-DEC-2025

説教:『空から届いた平和の知らせ』

聖書:ルカによる福音書 21節~14

 

今日、私達は「平和」という言葉を、ニュースや新聞で毎日のように目にします。私たちは皆、自分自身の心の平和、家族や友だちとの平和、職場や学校、そしてこの世界の平和を強く願っています。クリスマスの物語が始まる今から約2000年前の世界もまた、「平和」を強く求めていました。

 

当時、世界を支配していたのは、強大なローマ帝国。初代皇帝アウグストゥスは、その圧倒的な軍事力で内乱を収め、「パクス・ロマーナ」、すなわち「ローマによる平和」を築き上げました。それは、力によって秩序を保つ、いわば「トップダウンの平和」逆らう者には容赦ない罰が下されるどこか息苦しく、緊張をはらんだ平和です。

 

それは、現代の私たちが追い求める平和と、少し似ているかもしれません。

私達は、より良い成績、より高い地位、より多くの富、そうした「力」を手に入れることで、自分の人生に安心と平和が訪れると信じがちです。競争に勝ち強い自分でいることが、幸せへの道だと教えられます。

 

しかし、聖書が語るクリスマスの物語は、そんな私達の常識をひっくり返す、全く新しい「平和」の始まりを告げます。その夜、世界の中心であった首都

ローマから遠く離れた、小さな村ベツレヘム。皇帝の命令で人々が慌ただしく行き交う中、歴史を動かす本当の出来事は、誰にも気づかれない、最も静かで最も小さな場所で起きていました。薄暗い小屋の飼い葉桶の中で、ひとりの

赤ちゃんが産声をあげたのです。

 

荘厳な宮殿でも、きらびやかな玉座でもない。最も貧しく、最も弱い、無力な赤ちゃんの姿でこの世界に来られたお方。この方こそ、神の御子イエス・キリストでした。そして、この歴史的なビックニュースが最初に届けられたのは、皇帝アウグストゥスでも、エルサレムの偉い宗教家たちでもありませんでした。神様が選んだ最初の受信者は、夜通し野宿をしながら羊の番をする、名もなき羊飼いたちだったのです。

 

当時、羊飼いは社会の中で決して高い身分ではありませんでした。しかし、

神の使いである天使は、彼らの真ん中に立ち、こう告げました。「恐れる事はない。私は、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。今日ダビデの町で、

あなたがたの為に救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。」

「恐れることはない」―これは、未来に不安を抱き、競争社会の中で「自分は自分で大丈夫だろうか」と心配する、私たち一人ひとりへのメッセージです。

 

「大きな喜び」は一部の成功者だけのものではありません。民全体、つまり、強い人も弱い人も、うまくいっている人も、そうでないと感じている人も、

私たち「みんな」に与えられる知らせなのです。なぜ、赤ちゃんの誕生が、

これほど大きな喜びの知らせなのでしょうか。それは、この方の到来が、全く新しい種類の平和をもたらすからです。天使たちの大合唱が、その秘密を歌い上げます。「いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、御心に適う人にあれ。」

 

ここに歌われる平和は、力で押さえつける「ローマの平和」とは真逆です。

それは、神様が、ご自身のすべてを捨てて、最も低い場所へ、私たちの隣へと来てくださったことから始まる平和です。全能の神が、無力な赤ん坊になる。王の王が、貧しい家庭に生まれる。誰よりも強いお方が、誰よりも弱い者の姿を取られる。イエス・キリストの生涯は、自分を空っぽにし、私たちにすべてを与える「自己犠牲」の連続でした。

 

そしてそのクライマックスが、あの十字架です。私達の罪や弱さ、痛みや悲しみをすべて背負い、私達の身代わりとなって死んでくださった。これこそが、神様が私達に与えて下さる「平和」の土台です。それは「あなたはそのままでいいんだよ」という、神様からの全肯定のメッセージです。「強い自分でなくてもいい。完璧でなくてもいい。あなたの弱さも、失敗も、不安も、私が全て引き受ける。だから、もう恐れなくていいんだよ」と。この神様からの無条件の愛を受け取るとき、私達の心に本当の平和が生まれます。

 

他人と比べて焦る必要がなくなります。自分の弱さを隠すために鎧を着る必要もなくなります。ありのままの自分を、神様が愛して下さっている。その安心感が、私達を心の底から解放してくれるのです。そして神様との平和を頂いた者は、隣人との間にも平和を創り出す者へと変えられていきます。

 

自分の正しさを主張する代わりに、相手の痛みを知ろうとする。人を裁く代わりに、赦す事を選ぶ。力で支配するのではなく愛をもって仕える。イエス様がその生涯を通して示して下さった新しい生き方です。皆さん。クリスマスは、ただ美しい飾りつけを楽しむ日ではありません。サンタクロースからのプレゼントを待つ日でもありません。クリスマスとは、神様ご自身が、私達一人ひとりへの最高の「プレゼント」として、この地上に来てくださった日です。そして、そのプレゼントとは、どんな状況の中にあっても決して揺らぐことのない、あなたの心に直接届けられる、神様からの「平和」なのです。この礼拝のひととき、どうか静かに心を開いてみてください。

 

2000年前、羊飼いたちの耳に響いた天使の歌声が、今、あなたの心にも届いています。「恐れることはない。あなたのために、救い主が生まれた。」この神様からの最高のプレゼントを、今日、あなたの心で受け取ってみませんか。このクリスマスが、皆さん一人ひとりにとって、本当の平和の主であるイエス・キリストと出会う、恵まれた時となりますように、心からお祈りいたします。

 

祈祷:愛する天の父なる神様。

真の平和の君として、私たちのために御子イエス・キリストをお遣わしくださり、心から感謝いたします。どうか今日、ここに集う一人ひとりの心を開き、あなたからの最高のプレゼントである「平和」を受け取ることができますように、聖霊によってお導きください。私たちの救い主、イエス・キリストの御名によってお祈りいたします。 アーメン。

 

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